高齢者を狙う「還付金がもらえる」詐欺の手口と家族ができる防止策

高齢者を狙った特殊詐欺の中でも、「還付金がもらえる」という名目でお金をだまし取る還付金詐欺は、いま全国で深刻化しています。

警察庁の統計によれば、2023年の還付金詐欺の認知件数は5,336件、被害総額は約86億円にのぼり、そのおよそ9割の被害者が65歳以上の高齢者です(出典:警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」)。

こうした詐欺は、役所や年金機構、銀行の職員を装い、「医療費の還付金がある」「年金の過払い分を返す」といったもっともらしい説明で安心感を与えたうえで、ATMや口座操作に誘導します。手口は年々巧妙化しており、電話だけでなくSMSやLINE、メールを組み合わせた手法も増えています。

特に一人暮らしや日中に家族が不在の高齢者は、詐欺の標的になりやすい条件がそろっているため注意が必要です。

しかし、本人が「まさか自分が詐欺に遭うなんて」と思い込んでいるケースも多く、家族が気づいた時にはすでにお金が振り込まれていたという事例も少なくありません。

本記事では、還付金詐欺の典型的な手口と最新の事例を紹介しながら、家族が日常的にできる防止策や、もし詐欺に遭いそうになったときの緊急対応方法までを、具体的かつわかりやすく解説します。

ご自身や大切なご家族を守るために、ぜひ最後までお読みください。

目次

還付金詐欺とは?高齢者が狙われる理由

還付金詐欺とは、医療費や年金、税金などの「過払い金」や「還付金」を口実にして、被害者をATMや口座操作に誘導し、お金をだまし取る特殊詐欺の一種です。

特に高齢者を狙った犯行が多く、その背景には世代特有の生活習慣や社会的な状況が関係しています。

ここでは、還付金詐欺の基本的な仕組みと、高齢者が標的になりやすい理由、そして最新の被害状況について解説します。

還付金詐欺の定義と仕組み

還付金詐欺は、**「本来戻ってくるはずのお金を受け取るための手続きを装った詐欺」**です。犯人は市区町村役場、年金事務所、銀行職員などを名乗り、次のようなシナリオで被害者を信じ込ませます。

  1. 電話やSMSで接触
    「医療費の還付金があります」「年金の過払い分を返金します」といった連絡をする。
  2. ATMや口座操作に誘導
    「本日中に手続きしないと受け取れない」「近くの銀行ATMで操作してください」と急かす。
  3. 送金や振込を完了させる
    ATMの画面操作を指示し、実際には振込や送金手続きを行わせる。

この手口は、被害者に「お金がもらえる」という利益をちらつかせつつ、期限を切って焦らせるため、冷静な判断がしにくくなるのが特徴です。

高齢者がターゲットになりやすい背景

還付金詐欺は年齢を問わず被害が発生しますが、特に高齢者の割合が圧倒的に高い傾向があります。

その背景には、次のような要因が挙げられます。

  • 世代的特性
    高齢世代は役所や銀行を信頼する傾向が強く、公的機関の名を出されると疑いにくい。
  • 社会的孤立
    一人暮らしや日中に家族と接する機会が少ないことで、相談相手がいないまま判断してしまう。
  • 電話応対習慣
    固定電話の着信に必ず応答する習慣があり、詐欺の入り口となる電話を受けやすい。
  • デジタル機器への不慣れ
    ATMやスマホの操作方法を十分に理解していないため、犯人の指示通りに操作してしまう。

統計データで見る被害の現状

警察庁の発表によれば、2023年の還付金詐欺の認知件数は5,336件、被害総額は約86億円に達しています。

このうち**65歳以上の高齢者が被害者となった割合は約89%**と、ほとんどが高齢者です(出典:警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」)。

また、国民生活センターにも還付金詐欺に関する相談が多数寄せられており、2023年度だけで約2,000件以上の相談がありました(出典:独立行政法人国民生活センター「PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)集計」)。

この数字は、氷山の一角に過ぎない可能性が高いといわれています。

ここまでで、還付金詐欺がいかに高齢者に集中しているか、そしてなぜ狙われやすいのかが理解できたと思います。次の章では、実際にどのような手口が使われているのか、典型的な流れと最新の事例を紹介します。

還付金詐欺の典型的な手口と最新事例

還付金詐欺は、一見もっともらしい話の流れで高齢者を信じ込ませるのが特徴です。

犯人は「役所職員」「年金機構職員」「銀行の担当者」を名乗り、段階的に安心感と緊迫感を植え付けてきます。

ここでは、典型的な手口の流れと、被害者が騙されやすくなる心理、さらに最新の事例を紹介します。

典型的な手口の流れ

還付金詐欺の多くは、以下のようなステップで進みます。

  1. 初期接触(電話・SMS・メール)
    犯人が市区町村役場や年金事務所を名乗り、「医療費の還付金があります」「税金の払いすぎがあり返金します」と連絡してくる。
  2. 安心感を与える説明
    実在する役所名や部署名を出し、丁寧な口調で話すことで信用させる。
  3. 緊急性の強調
    「今日中に手続きしないと受け取れない」「今すぐATMに行けば間に合う」と急かす。
  4. ATMやオンライン操作に誘導
    犯人が「還付のための操作」と称して、実際には送金・振込を行わせる。
  5. 送金後の連絡途絶
    振込を終えると犯人は音信不通になり、被害が発覚する。

被害者心理を突く話術

この詐欺は、高齢者の心理的な隙を巧みに利用します。

  • 「公的機関」という肩書きで信頼を得る
  • 「お金が戻る」という利益提示で前向きにさせる
  • 「期限が迫っている」という焦らせで冷静な判断を奪う
  • 「手続きは簡単」という安心感で疑念を薄める

こうした心理操作は、複数のテクニックを組み合わせるため、冷静な人でも騙されやすくなります。

最新事例(2024〜2025年)

近年は、電話だけでなくデジタルツールを活用した手口が増えています。

  • SMSやLINEを併用
    「○○市役所年金課です。還付金の受取期限が迫っています。下記リンクから確認してください」というメッセージとURLを送付。リンク先は偽サイトで、口座情報を入力させる。
  • 迷惑メールフィルター回避
    犯人が役所と似たメールアドレス(例:@city.jp.com)を使い、正規の通知に見せかける。
  • 自動音声ガイダンスを利用
    電話に出ると「こちらは○○年金事務所です。還付金については1を押してください」という自動音声で誘導し、オペレーターにつなぐ。

警察庁によると、2024年後半からはSNSやメッセージアプリを起点にした還付金詐欺の相談が前年の約1.5倍に増加しています(出典:警察庁「特殊詐欺の被害状況に関する速報」2024年12月版)。

こうした事例を見ると、還付金詐欺は電話だけでなく、日常的に使う通信手段すべてが入り口になり得ることがわかります。

次の章では、家族がこうした詐欺から高齢者を守るためにできる具体的な防止策を紹介します。

家族ができる高齢者詐欺の防止策

高齢者の詐欺被害を防ぐためには、被害が起こる前に手を打つ「予防の仕組み」を作ることが重要です。

詐欺は一度被害に遭ってしまうと取り戻すのが難しく、また犯人に「この人は騙せる」と目をつけられると再び狙われる可能性があります。

そのため、家族が日常的に関わり、生活環境を整えることが最大の防御になります。ここでは、親の詐欺防止方法として有効な具体策を紹介します。

普段からのコミュニケーションを習慣化する

ニュースや新聞で詐欺関連の記事を見かけたら、その場で話題にして共有しましょう。

「こういう電話があったらどうする?」と、軽い雑談の中でシミュレーションをすることも効果的です。

特に還付金詐欺は「役所や銀行を名乗る電話がきたら要注意」と具体的に伝えておくと、実際の場面で警戒しやすくなります。

また、「お金の話やATMの話が出たら、まず家族に連絡する」という合言葉を決めておくと、詐欺被害の未然防止につながります。

電話機やスマホの設定で入り口を減らす

詐欺は最初の接点を断つことが重要です。

  • ナンバーディスプレイ機能を活用し、見知らぬ番号には出ないよう習慣化する
  • 着信拒否設定で不審番号や非通知をブロックする
  • 自動録音機能付き電話機を導入し、犯人に「録音されている」と意識させる

特に自動録音は効果が高く、警察庁の調査によれば、録音警告が流れるだけで詐欺犯の約7割が通話を切ったというデータがあります(出典:警察庁「特殊詐欺被害防止機器の効果検証結果」)。

郵便物や書類を一緒に確認する

詐欺グループは電話だけでなく、郵送物や書類で信用を装うこともあります。

  • 役所や銀行からの通知を装った封書を送る
  • 架空の返金手続き書類を送りつける
  • 個人情報や口座番号を記入させるフォームを同封する

家族が週に1回でも郵便物を一緒に確認するだけで、不審な書類を早期に発見できます。

また、高齢者の自宅ポストにチラシや怪しい案内が頻繁に届く場合は、地域の警察や消費生活センターに情報提供することも有効です。

このように、普段の会話・機器の設定・郵便物の確認という3つの防止策を組み合わせることで、還付金詐欺をはじめとした高齢者向け詐欺のリスクは大幅に下げられます。

次の章では、実際に詐欺の予兆を察知するためのポイントを解説します。

還付金詐欺の予兆に気づくポイント

還付金詐欺は、被害者が「これは詐欺だ」と気づく前に一気に話を進められるのが特徴です。

しかし、犯人の行動や発言には必ず「おかしな点」があります。こうした予兆に早く気づければ、被害を未然に防げます。

ここでは、典型的な危険信号と、公的機関では絶対に行わない手続き、そして高齢者本人にもわかりやすい見抜き方を紹介します。

こんな連絡があったら要注意(危険信号)

  • 役所や年金事務所を名乗る電話
    → 特に「還付金があります」「年金の過払い分を返金します」などの説明がある場合。
  • ATMに行ってと言われた
    → 「手続きはATMで」「今すぐ行ってください」と急かされるケース。
  • 今日中に手続きしないと受け取れないと言われた
    → 期限を切って焦らせるのは詐欺の常套手段。
  • 電話口で口座番号や暗証番号を聞かれた
    → 正規の機関は電話で暗証番号を聞くことはありません。

これらが一つでも当てはまれば、まずは家族や警察に相談するべきです。

銀行や役所では絶対に行わない手続き

犯人はあたかも公的機関の手続きのように見せかけますが、実際の役所や銀行では以下のようなことは一切行いません。

  • ATMの操作で還付金や返金手続きをさせる
  • 電話やSMSで口座の暗証番号を聞く
  • 金融機関やコンビニに急行させる
  • 手続き期限を数時間〜1日以内に設定する
  • 家族や第三者に知らせずに進めるよう指示する

もしこうした言動があれば、それは**「公式のやり方ではあり得ない」=詐欺確定のサイン**です。

高齢者本人に伝える「簡単な見抜き方」

高齢者が覚えやすく、日常で実践しやすい「詐欺見抜きの合言葉」を作っておくと有効です。たとえば——

  • 「役所がATMに行けと言ったら詐欺!」
  • 「お金の話はまず家族に電話!」
  • 「急がせる人は詐欺だと思え!」

特に「役所や銀行はATMで返金しない」という一点を強調して伝えると、詐欺被害の多くを防げます。

このように、危険信号・公式では行わない手続き・わかりやすい合言葉を組み合わせることで、本人も家族も早期に異常に気づくことが可能になります。

次の章では、もし詐欺の電話や訪問を受けてしまった場合の緊急対応方法を解説します。

もし詐欺の電話や訪問を受けてしまったら

還付金詐欺は、気づいた時点で即行動に移すことが被害防止の鍵です。

まだお金を振り込む前なら、被害をゼロにできますし、万一振込後でも迅速な連絡によって送金を止められる可能性があります

ここでは、被害前と被害後に分けて、取るべき対応を解説します。

被害前の緊急対応

もし電話や訪問で「還付金がある」「ATMで手続きして」などと指示された場合は、以下の行動をとってください。

  • すぐに通話を切る・訪問を打ち切る
    犯人は会話を続けて冷静さを奪おうとします。迷わず終了させることが重要です。
  • 家族に連絡する
    事実確認や冷静な判断のため、まず信頼できる家族や知人に電話をしましょう。
  • 警察に通報する
    不審な電話や訪問があった旨を伝え、指示に従います。未遂の段階でも通報は可能です。

被害後の対応

すでにお金を振り込んでしまった、または口座情報を教えてしまった場合でも、早急に行動すれば被害回復の可能性があります

  • 銀行や金融機関に連絡
    振込先の口座を凍結し、被害金の払い戻しを受けられる可能性があります(振り込め詐欺救済法の適用)。
  • 警察に被害届を提出
    振込記録や通話履歴、郵便物など証拠となるものを持参すると手続きがスムーズです。
  • 消費生活センターに相談
    法律や制度の説明、被害回復のための助言を受けられます。

通報・相談先一覧

被害の有無に関わらず、以下の連絡先をすぐに使えるようメモや電話帳に登録しておくと安心です。

  • 警察相談専用電話:#9110(全国共通、平日・休日対応)
  • 最寄りの警察署:110(緊急時)
  • 消費者ホットライン:188(いやや!で覚える)
  • 金融機関の連絡先:利用している銀行の詐欺被害専用窓口

ポイント
還付金詐欺は「気づいたらすぐ行動」に尽きます。被害前ならゼロで防げ、被害後でも迅速対応で損失を減らせる可能性があります。ためらわず、家族や専門機関へ連絡しましょう。

まとめ

高齢者を狙った還付金詐欺は、年々手口が巧妙化し、被害の多くが65歳以上に集中しています。犯人は役所や年金事務所を名乗り、「お金が戻る」という名目でATMや口座操作に誘導しますが、公的機関がATMで還付金手続きをすることは絶対にありません

本記事で解説したように、被害を防ぐためには——

  • 普段からニュースの共有や「もし詐欺だったら?」の会話を習慣化する
  • ナンバーディスプレイや自動録音など電話機・スマホの設定を活用する
  • 郵便物や書類を家族と一緒に確認する
  • 「役所がATMに行けと言ったら詐欺!」という合言葉で覚える
    といった具体的な予防策が有効です。

そして、万一不審な電話や訪問を受けたら、すぐに通話を切り、家族や警察へ連絡しましょう。被害後でも銀行や消費生活センターへの迅速な相談によって、被害金が戻る可能性があります。

詐欺は知識と準備で防げる犯罪です。今日からできる小さな行動が、大切な家族の生活を守る大きな力になります。ぜひこの記事をきっかけに、親や祖父母と一緒に「詐欺防止のルール作り」を始めてみてください。

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